嶋野顕太郎、インターコンチネンタルシドニーの前

現在オーストラリアのシドニーにて、インターコンチネンタルシドニーのフロントマネージャーを務める大阪出身の嶋野顕太郎さん(経済学、政治学同時専攻2010年卒)。テンプル大学ジャパンキャンパス(TUJ)在学中には、Citi Group/国連世界食糧計画(WFP)やスウェーデン大使館など複数のインターンシップを経験、国際感覚と確かなコミュニケーション力を身に着けました。リーマンショック後の厳しい就職活動期を経て、ヒルトン・ホテルズ&リゾーツ入社、マネジメント養成プログラムで大阪、東京勤務、2年後にはマネージャー職としてヒルトンニセコビレッジ、その後ヒルトン・シドニーへ赴任。2018年に同社を退社し、2019年から現職。今回の新型コロナウイルス感染拡大の最中、ロックダウンのシドニーにおいて、ホテルの最前線で顧客対応にあたりました。

シドニーのロックダウン、隔離施設としてホテル内で対応

—3月後半から、国全体のロックダウンの中、海外からの帰国者の隔離施設として、ホテルで対応に当たられました。

ホテルは、シドニーの空港に海外から帰国した方々を国からの要請で、14日間滞在いただく隔離施設として稼働していました。直接お客様と接触するのは警察、軍隊で、私たちホテルスタッフは警察、軍隊の指示のもと、誰も経験をしたことのない環境の中、手探りでオペレーションをこなしました。ただこれもまたとても貴重な勉強で、今後のキャリアにはかなりプラスになると思っています。

ホテルの通常営業がクローズしたのは3月27日で、翌28日から帰国者の隔離施設として再稼働しました。現在(※2020年6月)のところ、政府から海外帰国者の14日間隔離制度に変更は出ていません。また、NSW(ニュー・サウス・ウェールズ)州では日々の新規感染者は海外からの帰国者のみで、州内での新規感染者はゼロです。その他の州も同じくゼロか数人程度です。

—具体的にはどんな対応をされたのでしょうか。

通常はフロント担当ですが、チームのスタッフ全員が電話のオペレーターとして交換台にスタンバイし、ご滞在のお客様からの質問、要望にお応えするのが私たちの役割でした。ルームサービス等は基本ご提供していませんでしたが、アルコールのデリバリー、ミールサービス、当ホテルのバリスタの淹れたコーヒーをお届けするなど最低限できる範囲の対応をさせていただきました。時間指定を受け、スタッフがドアの前にトレーを置き、ノックをして立ち去ったのちに、お客様がピックアップするという。スタッフを守ることが一番大事、との支配人の方針もあり、安心して働く環境を整え、当ホテル内の感染者はゼロを保っています。509室ある部屋が満室になったり、日々のフライト状況によっては、本当にフル稼働の状況でした。

ZOOMによるオンライン取材で撮影
嶋野顕太郎さん(経済学、政治学同時専攻2010年卒) ZOOMによるオンライン取材で撮影(2020年5月)

—この経験を通じて学んだことは?

いい意味で貴重な経験値になっています。「withコロナ」状況下において、この数か月で学んだ衛生管理、手洗い、うがい、マスクの習慣はオーストラリアではこれまでありませんでしたが定着しつつありますし。ビジネスとして、これからホテル業界は厳しい状況にあり、観光業はもとより、世界的なテレワークの普及でビジネス出張もこれから需要が変わってきて、どこまで影響があるか、まだまだわからない状況ではあります。

オーストラリアでは、人命優先、第2波、第3波は絶対に起こさせないという、徹底した施策に向かう国の方針が明確で、シドニーも海外からの受け入れ回復にはしばらく時間を要するでしょう。海外旅行に以前のように出かけられるのは、早くて2023年からといわれています。

緊急時はコミュニケーションが鍵

—今回のコロナ禍における対応で、一番の苦労はどんなことでしたか?

政府からのガイダンスが各受け入れホテルによって違ったことです。シドニー市内で隔離施設として帰国者を受け入れているホテルはほかにも複数あり、滞在のお客様同士がフェイスブックなどでつながり、それぞれ別のホテルの様子をつぶさに情報交換しており、例えばここのホテルでは、外部からのデリバリーを注文できたが、あちらではそれができない、提供されるご飯のクオリティーの違いやホテル間でのサービスの違いなど例を挙げればきりがありません。ただホテルへの批判もある中、ホテル側の立場に立って擁護してくださる一般の方々の反論もあったのは、オーストラリアの国民性だなと実感した場面もありました。

—では、逆によかったと思われたことは。

お部屋のドアにお客様が手書きの「感謝状」を貼ってくださったこともあり、それは早速写真を撮って、グループ内のスタッフ全員とシェアしました。また、チーム内のメンバーと距離が近くなったのもよかったことです。オーストラリアではビジネスはビジネス、と割り切るつきあいのスタッフも多かったのですが、一つの部屋にチームで待機し、警察と軍隊を相手に対応するという非日常のオペレーションで、仲間意識が芽生えました。

学びは続く。将来はエコツーリズム起業

—グローバルにキャリアを積まれている嶋野さんですが、ご自身の進学先として、TUJを選んだのはなぜでしょうか?

中学三年間カナダ、高校時代にアメリカに一年留学しており、卒業後海外もしくは国内でも英語でも通用する国際的な人材となるためTUJへ進学しました。日本国内の大学との大きな違いはGPAでの評価制度や、アメリカに行かずともアメリカの大学を卒業資格が得られ、学位取得できるからです。また、返済不要の給付型奨学金ももらえたことが挙げられます。

ZOOMによるオンライン取材で撮影
嶋野顕太郎さん(経済学、政治学同時専攻2010年卒) ZOOMによるオンライン取材で撮影(2020年5月)

—将来のキャリアプランを聞かせてください。

これまでのホテル業界での経験値を活かして、将来的にはエコツーリズムの世界で起業したいと思っています。両親が無農薬農業を営んでいるので、宿泊施設と連動した体験型のビジネスが面白いのではと考えています。

—TUJで現在学ぶ、そしてこれから学ぼうとする後輩たちへ励ましの言葉を。

日本にあるアメリカの大学として、TUJには海外からいろいろな学生が集まってきているので、多種多様な考え方、マインドセットを彼らから学び、十二分に吸収していけば、時代の変化にも臨機応変に対応して、今回のような未曽有の危機にも生き抜く力がつくと思います。一つの解にこだわらず、いろんな考え方に触れ、アウトプットにつなげる力は、これからの社会で必ず役に立つでしょう。